「職業人養成大学」の新設に関する一提言 ~高等学校後期課程の新設~

現在、文部科学省は、学識経験者らを集めたプロジェクトチーム「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会」を組織し、大学に準じる新たな高等教育機関の制度化を検討しています。
当該の教育機関は名称未定の段階であるため、以下では「職業人養成大学」と記述します。

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会(文科省HP)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo13/index.htm

「職業人養成大学」の概要

上記の特別部会はすでに17回(2016年5月25日時点)が開催され、この時点で話し合われている「職業人養成大学」の概要は以下のとおりです。

修業年限
◎ 2・3年制及び4年制の複数の修業年限を制度化。
◎ 4年制課程については、前期・後期の区分制課程も導入。

教育内容・方法
《実践的な職業教育のためのカリキュラム》
◎ 分野の特性に応じ、卒業単位のおおむね3~4割程度以上は、実習等(又は演習及び実習等)の科目を修得。
◎ 分野の特性に応じ、適切な指導体制が確保された企業内実習等を、2年間で300時間以上、4年間で600時間以上履修。
《産業界・地域等のニーズの反映》
◎ 産業界・地域の関係機関との連携により、教育課程を編成・実施する体制を機関内に整備
《社会人等が学びやすい仕組み》
◎ 社会人等をパートタイム学生や科目等履修生として積極的に受け入れる仕組みや、短期の学修成果を積み上げ、学位取得につなげる仕組みを整備。

学位
◎ 実践的な職業教育の成果を徴表するものとして相応しい学位名称を設定。
※ 学位の種類としては、大学・短大と同様、「学士」及び「短期大学士」の学位を授与することが適当。
※ 現行の大学・短大の学位には、専攻分野の名称を付記するものとされているが、新たな機関では、当該専攻分野の名称として、学問分野よりも、産業・職業分野の名称を付記することや、専攻分野に加え、「専門職業」、「専門職」などの字句を併せ付し、専門職業人養成のための課程 を修了したことを明確にすること等が適当
⇒ 「法務博士」のような有名無実の学位になりかねません!

名称
◎ 例えば、4年制は、「専門職業大学」、「専門職大学」など2・3年制は、「専門職業短期大学」、「専門職短期大学」など。

「職業人養成大学」に反対する3つの理由

小生は以前のブログエントリーにて、「職業人養成大学」に反対する理由を3点述べました。

1. 「専門職なら食べていける」という勘違いが前提の教育政策
2. そもそも「専門的職業」とは何なのかが明示されていない
3. 理系単科大学並みの高コスト体質になる

政府肝いりの『職業人養成大学?』がコケそうなワケ
https://shokuinblog.com/edu/politics/835/

ポイントを要約します。まず、「専門職なら食べていける」という勘違いについては、介護職や保育士を例にとれば分かりやすいと思いますが、雇い主を必要とする専門職は非常に立場が弱い、ということです。一度は就職したとしても、低賃金・重労働のため、その職業に長く定着することができません。
2つ目の問題は、そもそも「専門的職業」とは何なのかが漠然としたまま議論が進められており、いわゆる「ジェネラリスト」と何が違うのかが全く分からないということです。
3つ目の問題は、「職業人養成大学」がかなりの高コスト体質になるだろうという点です。人件費のかかる実習科目が中心となることに加え、大学のような教養科目も置かなくてはなりません。法科大学院の募集停止が相次いでいるように、私立学校は採算が取れないと知るやいなや、即座に撤退していきます。

職業人養成教育は高等学校の後期課程として新設するべきだ(提言)

2016年1月20日に開催された特別部会(第9回)で、委員の益戸正樹氏から次の発言がありました。この方はバークレーズ銀行の日本支社幹部です。

私は,1980年から85年まで,都市銀行の人事部で採用担当の経験があります。当時,高校から大学,短期大学への進学率が高まり始め,優秀な高卒の方の採用が難しくなり始めた頃です。「特に中小企業・リテール業務でリーダーシップ」を発揮していた中堅マネージメント候補者となる男子高卒者のレベルを維持した採用は難しく,銀行界ではいち早く採用中止を決定しました。

これに対して、佐藤東洋士氏からも、次の発言がありました。この方は桜美林大学の総長です。

先ほど益戸委員が1984年に銀行が高卒の生徒を採らなくなったというようなお話がありました。それまでのことを考えると,高等学校もいわゆる商業高校や農業高校,工業高校はかなり良い人材を産業界に出すというような役割がありました。

さて、小生も金融に10年ほど勤めておりましたが、当時も一般職に関しては高卒者の採用が残っていたように記憶していますし、1980年代頃までは当たり前のように女子高卒者を採用していました。
その時代、大手企業がどのように高卒者を採用していたかというと、学区トップ校に学校推薦枠というものがあったのです。女子の大学進学率が低い時代でしたから、成績優秀な女子学生は高卒で一流企業へと就職していきました。この時代に入社した女性の中から、大企業で役員まで昇格する人が近年相次いでいます。
佐藤東洋士氏の言うように、もともと日本の高校には良い人材を社会に送り出す能力があります。いまも工業高校などではその伝統が残っており、大卒者がなかなか入れないような有名企業にも、技術職として卒業生を送り出しています。

この30年で日本はすっかり大卒者中心の世の中になりましたが、教育水準が向上したというよりも、学歴社会をより強固にしたという負の側面の方が大きいでしょう。
いまここで重要なことは、「大卒か否かという二元論が支配する世の中を正していかなければならない」ということです。
学歴が「人生の特急券」になるような社会は、少ない勝者と多くの敗者を作るばかりか、大学教育の質をも落とします。学歴社会は大学にとっても望ましくはないのです。

学歴社会にブレーキをかけつつ、勤勉な若者がしっかりと評価される世の中を作る。そのために、以下のプランを提言したいと思います。

「職業人養成大学」の制度化に反対したうえで、これに相当する教育機関を高等学校の「後期課程」として位置づける。そして、2019年度から導入が予定される「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の成績優秀者に当該後期課程への進学を認める。

以上

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