雇用ルール改善の歴史(昭和時代第5部1980~89年)

60歳定年制、週休2日制といった当たり前の雇用ルールですが、これらが日本の社会に根づいたのは実は1980年代のこと。公務員には明確な定年さえありませんでした。そこで今回は「雇用ルール改善の歴史」と題して、ほんの1世代前の雇用環境を学んでみようと思います。例によってご関心があれば続きをご覧あれ。

これは「ウサギ小屋」だ<日本はウサギ小屋とほとんど変わらないところに住んでいる仕事中毒者の国>
1979年3月、欧州共同体(EUの前身)の内部文書が報じられ、日本人の働き過ぎが問題となった。
実際、日本の製造業労働者の年間総実労働時間は、80年代を通じて2100時間前後。西ドイツより約500時間、1日8時間労働に換算すると年に2ヶ月分以上、多く働いていた。

当時の首相・大平正芳は、日本人が「エコノミック・アニマル」と呼ばれるのを嫌っていた。だが、時代の流れには逆らえず、政府は1981年3月、国家公務員の「4週5休」制に踏み切った。月1回の土曜を交代で休む方式だ。
5月には銀行法を改正し、銀行の土曜休業を可能にした。政府の要請を受けた全銀協は、郵便局と歩調を合わせ、1983年8月、金融機関の第2土曜休業を実現する。

銀行の土日休業に不便さを感じたことは誰しも経験済みかと思うが、過重労働を見直すための改善策だったとは知らなかった。まずは公務員や銀行員といったエリート職種から土曜休みを国民に浸透させようとしたのだろう。銀行決済をストップすれば、その日にモノを売ろうとする人も減るという仕組みだ。

「土曜休み」の拡大<現在の週休2日制が形作られる>
時短への機運は80年代後半に一気に高まり、1986年4月いわゆる「前川リポート」が、内需拡大策の一つとして「欧米先進国なみの年間総労働時間の実現と、週休2日制の早期完全実施」を提言した。
こうした中、金融機関は1986年8月には第3土曜も休業となり、88年には翌年2月からの完全週休2日制実施を決定した。公務員も1988年から4週6休制を本格実施した。
時短に最大の効果を発揮したのは労働基準法の改正だ。法定労働時間を48時間から、国際基準の週40時間に短縮した。

職場の大先輩の昔話を聞くと、この時代の土曜はいわゆる「半ドン」で、土曜の午後は酒を飲んで帰るのが当たり前だったとか。子供も土曜の午前中は学校があったから、泊まりでレジャーなど盆暮れにしかできなかった。
改正労働法の施行は1988年4月のこと。法定労働時間を40時間に短縮することにより、1日8時間労働で5日しか働けなくなり、週休2日制を事実上義務づけることとなった。
ちなみに男女雇用機会均等法の施行が1986年だけど、1970年代までの労働環境では共働きなど非現実的であっただろう。

60歳定年制を導入
定年延長は、1980年代になると官民ともに「60歳定年制」が一気に浮上した。それまでは55歳が一般的で、公務員にはそもそも定年制がなかった。
国、地方ともに定年がなかった公務員は、定年制の代替として退職勧奨、いわゆる「肩たたき」が慣例となっていた。1980年1月の読売新聞には、「高齢職員が増えればどうしても行政効率は低下する。しかし公務員に定年制がない以上、それを強制する力はわれわれにはない」という都の職員課長の嘆き節が紹介されている。
1980年に政策推進労組会議が発表した実態調査では、大企業の38%が60歳定年制に踏み切っていたものの、60歳定年の導入に政府は慎重だった。結局、国家公務員法の改正により1985年に公務員に60歳定年制が導入され、民間企業の従業員に関しても1986年4月に60歳定年の法案が成立した。ただし、これが法的義務として施行されるには、1998年まで待たなければならなかった。

年金受給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられており、60歳からの無職期間をどう生きるかが社会問題になっている。しかし、60歳定年制が導入されるまでは55歳定年が一般的であり、当時も60歳の受給開始まで無職期間があったということ。この歴史を踏まえると、今後は65歳定年制や70歳年金受給開始も既定路線のように思えてくる。
また、かつて公務員には定年がなく、いわゆる「肩たたき」が一般的だった。このことが生活を支える手段としての「天下り」を助長したことは疑いの余地は無い。
このように過去の歴史を紐解いていくと、過去・現在・未来が一本の線で繋がっていくように思える。

2000年頃にバブル崩壊後の「失われた10年」などと言われたものだが、それから更に15年が過ぎてしまった。年を追うごとに労働環境が改善していった世代の熱気や活力に思いを馳せれば、なんとも砂を噛むような時代を生きているものだと思う。
労働環境が大幅に改善されたとはいえ、サラリーマンにとっては上司の影響がとても大きい。わたしは常々、「サラリーマンにとって上司は部下の労働環境そのものだ」と言ってきている。
実際にわたしも20代の頃、月に400時間ほど働いたことがあるが、ある日突然駅前の路上で、足が沼地に沈むかのような幻覚におそわれた。この状態がもう少し続いたら、あるいは健康を崩したかもしれない。

なお、この記事は読売新聞の特集から一部抜粋しました。
http://premium.yomiuri.co.jp/pc/#!/news_20151002-118-OYTPT50393/list_SHOWAJIDAI
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